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薬と歴史シリーズ 19

目薬の変遷 9 へ ≪  ≫ 赤痢・チブス・コレラ・ペスト へ
~ 伝染病・結核 ~

薬や病気にまつわる歴史を追ってきたこのシリーズ、今回は衛生思想や伝染病に関係する資料を紹介して日本人の健康追及の努力の道をたどってみたいと思います。

Ⅰ)傳染病

  • まずは明治4年(1871年)に太政官の布告(写)があります。内容は“この度シベリア海岸(沿岸)にて悪性傳染疫・ペストが流行の旨の連絡が上海出張の官員よりあり、以下の予防方法を大学東校(:東大医学部の前身)において作成、これを布告、一般に通達するものである。”というものです。
    文中“ペストを一種ノ傳染病ノ名”と記述するなど鎖国から開国へと急展開する国情に伴う感染症の流入への対応の慌ただしさが伺えます。

    伝染病・結核 伝染病・結核
    『太政官の布告』

  • つぎに明治時代の“傳染病患者診斷届”用紙と“傳染病患者轉歸届”用紙があります。
    ここにはどのような病名が書かれたのでしょうか?

  • また大正2年(1913年)に出版された『小児傳染病講義』という書物があります。
    そこには小児の罹る伝染病として「痘瘡」「水痘」「麻疹」「實布的里(ジフテリア)」「猩紅熱」「百日咳」が挙げられています。
    「痘瘡」(「疱瘡」「天然瘡」)については過去にも歴史シリーズ(その4)で取り上げたことがありますが、今回はかつて日本人を苦しめ、今日ではその多くが克服された伝染病や過去の病、そして最近はあまり使われなくなった言葉「衛生(思想)」についてもコレクション資料を散策して見たいと思います。

    伝染病・結核 伝染病・結核
    “傳染病患者診斷届”       “傳染病患者轉歸届”

    伝染病・結核 伝染病・結核
    『小児傳染病講義』

  • 「傳染病豫防消毒論」は明治30年(1897年)に陸軍軍醫の翻訳した1894年獨逸伯林(ベルリン)府において出版された傳染病とその豫防、消毒方法について書かれた書物で後述の伝染病の予防方法や抑留検疫、国際予防法などの最新の知識が書かれています。


    伝染病・結核 ① 衛生思想、伝染病予防思想の普及・啓蒙啓発関係

    まず初めに紹介しますのは明治13年(1880年)に書かれた『衛生の手びき』という小冊子です。 ここには一般の衣食住にまつわる衛生(思想)の普及の他、格列刺(コレラ)、腸窒扶斯(腸チフス)、實布的里亞(ジフテリア)、發疹窒扶斯(発疹チフス)、「痘瘡」「麻疹」などについて当時の医学知識を簡略に紹介し、明治期の富国強兵の礎となるべき国民健康、衛生(思想)の普及に勤めています。出版人は長野縣平民の伊藤甲造でした。
    その他戦前~戦後にかけての防疫啓蒙の資料としては次のようなものがあります。

    ポスター
    伝染病・結核

        “十一月の御大典には
           特に傳染病に罹らぬやう
              丈夫で奉祝しませう”

    :茨城県笠間の地名が書かれています。大典とは国家の大事な行事の総称で、大正4年11月10日には大正天皇の、昭和3年11月10日には昭和天皇の即位式が行われており、御大典とはそのことと思われます。

    『健康保険 保健いろはかるた標語集』
    伝染病・結核 伝染病・結核 (内務省社會局保險部 昭和7年-1932年)

      “いつも健康楽しい家庭”
      “路頭に迷うも病から”“早寝早起腹八分”
              :


    『榮養の話』
    伝染病・結核 (内務省社會局保險部 昭和6年-1931年)


    『傳染病 豫防問答』 (健康保険組合 昭和11年-1936年)
    『傳染病 豫防問答』 (内務省社會局保險部 昭和6年-1931年)
    『予防接種個人手帳』 (千葉縣東金保健所 昭和25年-1950年)
    伝染病・結核 伝染病・結核 伝染病・結核

    『豫防接種施行證明書』 (東京逓信局 東京都衛生局防疫課 昭和22年-1947年)
    『豫防注射済證』 (福島縣若松市長 昭和23年-1948年)
    伝染病・結核 伝染病・結核

    伝染病・結核 伝染病・結核 『體力手帳』 (厚生省 昭和16年-1941年)
    『體力手帳』 (厚生省 昭和19年-1944年)

    *體力検定個人成績票の項目には100米疾走の他、手榴弾投げがあり当時15歳の同君は34米という成績でした。

    伝染病・結核 伝染病・結核 『母子手帳』 (厚生省 昭和23年-1948年)
    『母子手帳』 (厚生省 昭和27年-1952年)

    ② 結核・感冒関連資料

    かつては多くの国民の命を奪い、また苦しめ国民病とも言われた結核ですが、近年復活の兆しもある伝染病です。 その撲滅を目指して大正8年(1919年)には結核予防法(:定期診断、BCG接種、患者届出、療養所収容、医療費公費負担などを規定。)が公布され度々改定されて来ました。 結核関連の資料としては次のようなものがあります。

    『結核豫防の常識』 (財團法人三重縣結核豫防協會 昭和3年-1928年)
    『結核の豫防』 (内務省社會局保險部 昭和7年-1932年)
    『療養と豫防の早わかり』 (財團法人日本結核豫防協會 昭和8年-1933年)
    『予防と療養 結核眞髄』 (財團法人日本結核豫防協會 昭和10年-1935年)
    伝染病・結核 伝染病・結核 伝染病・結核 伝染病・結核

    『結核豫防讀本』 (健康保険協會編纂 昭和11年-1936年)
    『銃後を襲ふもの 結核豫防讀本』 (健康保険協會編纂 昭和13年-1938年)
    『結核豫防ポスター』 (満州結核豫防會)
     健康は結核の大敵 治療は早期に消毒は警察へ 痰唾は痰壺に
     *大連駅の時刻表入り。標語が中国語でも書かれています。
    『胸を張れ窓を開けよ陽を浴びよ』 (山形縣 令旨奉體結核豫防 少年少女結核豫防運動)
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    『結核性疾病(延長)診療 被保險者ノ世帯員診療
            政府ト日本醫師會トノ間ニ於ケル 診療契約書』
     (日本醫師會 昭和15年-1940年)
    『療養ニ関スル處置命令書』 (昭和17年-1942年)
    伝染病・結核 伝染病・結核

    『結核治療薬 ダイレクト チラシ』
    伝染病・結核


    = 関連する呼吸器疾患“感冒”の予防の資料です =

    『冬季に罹りやすい病氣の豫防線』 (健康保険組合 昭和10年-1935年)
    『新版 感冒讀本』 (健康保険協會編纂 昭和11年-1936年)
    『感冒讀本 銃後の冬に備へて悪性流感を豫防せよ!』 (健康保険組合 昭和12年-1937年)
    伝染病・結核 伝染病・結核 伝染病・結核

    『流行性感冒の豫防心得』 (埼玉縣)
     *マスクをかけている人物像とマスクを呼吸保護器(くちをひ)と称してるところから
      明治~大正期・昭和初期のポスターと思われます。
    伝染病・結核






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