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今は昔 売薬歴史シリーズ 24

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~ やつめホルゲン ~

今も根強く人気の続く伝統薬の“今と昔の姿とその良さ”を伝える伝統薬。
今回は〖やつめホルゲン〗を御紹介いたします。

『やつめ肝油球ホルゲン』『ホルゲン肝油球』 = 〖やつめホルゲン〗

  • 「昔はこんな薬もありました22」で「肝油」を詳しく取り上げましたが、この〖やつめホルゲン〗も「肝油」に類似したビタミン系伝統保健薬と言える薬です。
    そこで重複しますが「肝油」より一部を引用させていただきたいと思います。

  • 『肝油』とは真鱈や助宗鱈などの鱈(たら)や鮫(さめ)などの魚類の肝臓から取った油のことで、脂溶性のビタミンであるAとDを豊富に含有します。
    ビタミンAの欠乏は発育不良や夜盲症(とりめ・鳥目)、皮膚の角質硬化の原因となり、またビタミンDの不足はカルシウム代謝に影響し佝僂病(くるびょう)の原因となったり歯の発育不良をおこします。
    昔よりエスキモーや北欧、グリーンランドの住民たちは肝油を強壮剤として用いてきたようで、医学が進歩して18世紀になると上記の欠乏症に臨床的に用いられるようになりました。

  • 我国においては『肝油』は明治10年(1877年)頃にノルウェーから大阪の居留地に輸入されたのが初めで、明治17年(1884年)頃には大阪の薬種問屋に奉公していた伊藤千太郎によって初の国産化に成功、明治24年(1891年)には『眼鏡(めがね)肝油』として発売しました。

  • 眼鏡肝油をはじめとするビタミンA・Dに富む肝油は20世紀の初頭には多くの医師が保健強壮剤として推奨していましたが、それは魚の生臭さを持っていたため服用しにくいという欠点がありました。
    そこでゼリー状のドロップ式の肝油製剤として製剤上の改良を加えて作られたのが明治44年(1911年)に発売された『ミツワ肝油ドロップス』でした。
    その後肝油製剤は戦後の昭和30年代には学校用肝油ドロップに象徴されるように最盛期を迎えました。

  • このように『肝油』といいますと、それは真鱈や助宗鱈などの鱈(たら)や鮫(さめ)などの魚類の肝臓から取った脂溶性ビタミンのAとDを豊富に含む油を使った製剤というわけですが、今回御紹介します『やつめ肝油球ホルゲン』『ホルゲン肝油球』〖やつめホルゲン〗の原料であるヤツメウナギも鱈や鮫の肝臓並に15万IU/100gという多量のビタミンAを含んでいます。

  • ヤツメウナギは体の両側にあたかも目に見える7対の鰓孔(さいこう=エラ)を持ちそれが本来の目と合わせて8対の目のように見え、また細長く鱗の無い体はウナギのようであることから“八目鰻”と称するわけですが、ヤツメウナギは最も原始的な形質を持つ脊椎動物であってウナギとは全く無縁、別物の生物です。
    国内では日本海側では島根県以北、太平洋側では茨城県以北の河川で多く穫れ、脂肪に富みビタミンAを多量に含むため江戸時代から鳥目(とりめ・夜盲症)の薬として用いられてきました。
    ヤツメウナギの鮮魚は肉が固くてモツのような弾力と歯応えがありレバーのような独特の風味を持ちます。産地の秋田県ではぶつ切り(骨格はすべて軟骨からなっている。)にして醤油と出汁の濃い目のつゆで煮込む料理などが冬の味覚となっており、関東地方では蒲焼きとしても食べられてきました。 産地以外ではヤツメウナギは冷凍品か乾物として用いられており、丸ごと白焼きにしたものを油が漏れださないように切り分け佃煮風に甘辛く煮て食べられますが、台東区浅草においては現在でも明治時代から現在まで続く八目鰻蒲焼き専門店(八ツ目漢方薬局)が現存しています。

  • 現代ではヤツメウナギは上記のようにして食用とするよりも、天然のビタミンAやビタミンB類、ビタミンD、ビタミンE、鉄などの他、DHAやEPAなど様々な栄養素を豊富に含むことから、一般的には薬品やサプリメントの原料となることの方が多く、また乾燥品を粉砕したりして服用したり、身や肝から魚油を抽出してカプセルやドロップのような形にして服用します。 前記の八ツ目漢方薬局ではヤツメウナギのキモのソフトカプセル製剤やヤツメウナギの粉末の健康食品、乾燥したヤツメウナギ(:切らずに長いまま金網の上で丸焼きにして、焼けた後3センチ位に切って砂糖と醤油半々のタレで軽く煮立てる。半月位保存が効くとのこと。)や佃煮も販売しています。

  • 今回御紹介の現代の製品の〖やつめホルゲン〗はヤツメウナギの油にビタミンAやビタミンD、Eを加えた製品で滋養強壮、虚弱体質、肉体疲労、栄養障害、発熱性消耗性疾患、産前産後などの栄養補給の効能がうたわれていますが、戦前の製品『やつめ肝油球ホルゲン』ではそれらの効き目以外に腺病質(虚弱体質、発育不良)の人、貧血等に罹り易い(栄養障害)の人、病後回復期の人、夜盲症(とりめ)の人なども効くと書かれています。
    (妊娠中にはビタミンAの多量継続摂取では催奇形の危険度が増すとの指摘があります。)
    戦後の製品の『ホルゲン肝油球』は精製やつめ鰻油と肝油にビタミンAを加えた製品のようですが、戦前の『やつめ肝油球ホルゲン』にビタミンAが加えられていたのかは定かではありません。 なおこれらの『やつめ肝油球ホルゲン』『ホルゲン肝油球』〖やつめホルゲン〗は北海道水産工業株式会社によって長年にわたり作られ続けてきたものです。


『やつめ肝油球ホルゲン』 戦前の製品
やつめホルゲン
『ホルゲン肝油球』 戦後の製品
やつめホルゲン

やつめホルゲン
〖やつめホルゲン〗現代の製品

やつめホルゲン
《薬局経営日記 昭和29年版 より
『ホルゲン肝油球』広告》??

やつめホルゲン やつめホルゲン

広告チラシ、裏面はぬり絵になっています。
(表)
やつめホルゲン

(裏)
やつめホルゲン



〔参考文献〕
・インターネット     フリー百科事典 『ウィキペディア Wikipedia』
・インターネット     八ツ目漢方薬局HP
・『名薬探訪』      加藤三千尋 (同時代社)

〔現代の製品提供〕
・昭島市 十字堂薬局  荻野 祥子 先生


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