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昔はこんな薬もありました 4

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~ 変な外用薬 ~


このシリーズでは内服ワクチンや市販されていた覚醒剤そして比較的最近のアンテルミンチョコ、アンプル入風邪薬、カルブンケンを紹介いたしましたが、今回は(その4)として変な外用薬を紹介します。



1. 釜伏丹

  • 釜伏丹 釜伏丹 星製薬といえばSF作家、ショートショートで有名な星新一の父上の星一(ほし はじめ)の創設した製薬メーカーで、星一は現星薬科大学の設立者でもありますが、その星製薬が販売していた薬の“釜伏丹”を紹介いたします。
    “釜伏丹”はせき止め薬です。がしかし普通のせき止め薬と違うのは、飲まずに治ることで、ではどうするのかと言いますと用法に曰く「食塩水(シホミズ)ニテ煉合セ足裏(土踏ず)ニ貼用(はりつけ)スベシ」というものです。
    “釜伏丹”は鳥取地方に350年来伝わる家伝の秘法薬で、皇漢薬14種を調合した“黒焼き”で、創製当時“黒焼き”を釜を伏せて調製したことにより方名を“釜伏丹”としたという由緒ある薬で、それを星製薬が一括販売していたようです。
    具体的には食塩水が手元に無い時は、“釜伏丹”一包に食塩3~5瓦を入れ、徐々に水を加えかき混ぜ、漆喰と山芋の中間程度の固とし(よく煉る程よく粘着力が生じるようです。)、煉り上がった薬は木綿布に伸ばして両足の土踏ずの一面に貼り、その上から包帯を巻きさらに足袋を履くものです。
    このように2~3日も続けると薬が体内に浸透し、“血の出るやうな子供の咳も餘程良くなり”また“數十年來の頑固な喘息も発作が減り”“二・三期と進行した肺病や肋膜のたんせきも静まり病を忘れたかのようになる”ようです。
    効能書にはさらに次のように書かれております。
    “足の裏に貼薬し『たんせきの病』を治すと言えば『そんな馬鹿なことがあるものか』と申される向もありますが使用して其の卓越せる効果に驚かれる有様です。論より証拠、何百年の歴史は決して偽りは語りません。
    『たんせきの病には他に断じて類のない特効薬だ』という信頼をもって施用して下さい。必ず十二分の御期待に添うことと信じます。”

    釜伏丹

    “黒焼き“については、このシリーズ(その3)“カルブンケン軟膏”の項でも触れました。不思議な薬効のある製剤ですが、明治以降もその製剤としての意義や薬効薬理の解明など行われず、全く置き忘れられた存在ともいえるもので再びこの“黒焼き”について考えてみたいと思います。
    “黒焼き”は(その3-(3))にあるように普通、植物・動物を土製の容器に入れて、埋めたり、和紙で包んだり出来るだけ空気の進入を防いで、酸欠状態で蒸し焼きにします。出来上がった“黒焼き”は暗黒色の炭化様の物質で一種の臭味と光沢を有しています。
    “黒焼き”の元祖は中国で、中国の本草綱目(李時珍 1590年頃)には各種の“黒焼き”が書かれており、室町時代の末期には本朝でも医師が“黒焼き”を使用していたらしく、この『釜伏丹』も鳥取地方に350年来伝わる家伝の黒焼き秘法薬で、1600年代にはこのように民間でも“黒焼き”が広く使われるようになったようです。
    漢方薬は採取したそのままではなく様々な加工をしますが、“黒焼き”もその加工方法の一種で保存に耐えたりカサ張らない利点がありますが、単なる灰ではなく、薬性が保存されているものです。それ以外にも炭素が働きの一部となったり、また加熱によって生じた成分が効く、また加熱によって無効成分や有害成分が取り除かれる、また水(:煎じる)や酒(:酒に漬ける=薬用酒)に溶けにくい成分が効く・・・などのメカニズムが考えられますが、前記のように今もって“黒焼き”は何故効くのか判らないので“黒焼き”は薬、医薬品ではないことになっています
    一方東洋医学には経絡という概念がありますが、14本の経絡のうち足の少陰腎経は足底の湧泉という穴(経穴)から始まりますが、脚の内側をのぼり腎、肝、横隔膜を纏って肺に入り気管・咽頭などで終わります。また傷寒論にいうところの少陰病に用いる麻黄附子細辛湯の証は咽頭痛が特徴であり足底-腎経-肺・気管・咽頭と考えますと、“釜伏丹”は“黒焼き”を用いた一種の経絡療法と解釈できるのかもしれません。


2. きづ薬

  • きづ薬 配置売薬の一種ですが、富山の第一薬品の作っていた外用薬で、ホルム散のように切傷・ただれに散布しますが、その成分が変わっています。
    内 容
     鳥賊骨 7.5
     黄柏 5.0
     タルク 2.5
    黄柏とタルクはよくある成分ですが、はじめに書かれている鳥賊骨が少なくとも現在となっては非常に珍しい成分です。
    鳥賊骨 鳥賊骨 鳥賊骨とはイカ(コウイカ科のコウイカ)の甲の乾燥したものです。
    鳥賊骨の名の由来は“鳥はその(鳥賊の)肉を好むが、(鳥賊は)自ら水上に浮かんで死んだふりをし、死んだものと思って飛んできた鳥が啄(ついば)むところを巻き付いて水中に引き込み鳥を食らう”ので鳥賊と名付けたもので、その甲を乾燥したものが鳥賊骨です。
    コウイカは東京付近ではマイカともいい市場にもよく流通しており、四季を通じて採れますが6、7月がヤマで、その甲は海上に浮いている甲骨をすくって集めるか、あるいは食堂で廃棄されたものを集めて淡水で洗い日光で乾かします。
    漢方の本によりますと子宮出血や創傷出血には良好な止血作用があり、黄柏の末などと共に塗布すると湿った皮膚を収斂して治癒せしめるとの事。成分には炭酸カルシウムや燐酸カルシウム、燐酸マグネシウム、膠質などを含むことから胃酸の中和作用もあり胃・十二指腸潰瘍にも効果があるとの事です。


3. 蛇頂石

  • 蛇頂石 正確には医薬品でなく部外品でもなく健康器具でもなく、よく判らない商品ですが、販売元は京都寺町と東京銀座に店を構える由緒正しき老舗鳩居堂であります。
    鳩居堂というだけで絶大なる信用が感じられますが、この“蛇頂石”は一切の毒虫や獣類に咬まれたり刺されたりした時に傷口にあてますと毒気を吸い取るという摩訶不思議な薬石であります。
    蛇頂石 その毒虫や獣類とは例として、蜈蚣(ごこう、百足ムカデのこと)、蝮蛇(マムシ)、蜂、蚤、蚊、南京虫、毒鼠(ドクネズミ)、狂犬(ヤマイイヌ)、海月(クラゲ)蝎(かつ、サソリのこと)が挙げられております。
    その使い方ですが次のような不思議なものです。
    “咬まれたり刺されたりした傷口を少しぬらして蛇頂石の平な部分をあてますと、毒気のある時に限って蛇頂石は傷口に密着、10~20分で毒気を完全に吸い取ると自然に離れおちます。被害後毒が広がらないうちになるべく速く使うことが大事のようです。 そして離れおちた蛇頂石は2~3分間清水に浸しておきますと泡をふきつつ吸い取った毒を吐き出します。泡が出なくなったらよく拭き乾かしておけば形のある限り永久に効き目に変化は無い。”
    蛇頂石
    蛇頂石
    なるべく速く使うことが肝腎で箱の横書きには次のように 書いてあります。

     “ ころばぬさきの要心棒 かまれた時の蛇頂石 ”

    よって家庭での常備はもちろん、山間や熱帯地方への旅行には御持参し、実験の結果効力をお認めになりましたら、どうか御知己へよろしく御吹聴下さるようお願い云々と効能書に書かれてあります。
    この石の成分が何なのか? 人工的に作られた石(人造石)のように見えるのですが、知っているお方がおられましたら御教授お願いいたします。
    昭和9年(1934年)“オール読物”広告


( 参考文献 )
 ・傷寒論(傷寒卒病論・傷寒雑病論)
 ・針灸治療の新研究 〈創元社〉 長濱 善夫 編
 ・原色和漢薬図鑑  〈保育社〉 難波 恒雄 著
 ・近代漢方薬ハンドブックII 〈薬局新聞社〉 高橋 良忠 著
 ・嘘八百 これでもか!!!! 昭和戦前篇 〈文藝春秋〉 天野 祐介 著


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