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昔はこんな薬もありました 18

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~ 舶来かぶれ ~



  • 以前、2008年(平成20年)10月16日付の日本経済新聞の文化欄に昔の薬の紹介記事の中で“薬の名前にカタカナ表記が多いのは英語を連想させ、舶来品に似た高級感を出そうという狙いだろうが…”と書かせていだきました。
    日本人の発明の中で、ひらがなとカタカナは日本の文化の多様性と寛容な外国文化の受容を生み出した大きな特筆すべき発明の一つだと思います。
    舶来とは辞書によりますと外国から舶(:おおきな船)載して来ること、またそのもの、外国輸入品のことで→→舶来品、舶来種、舶来かぶれなどの言葉に発展しました。
    明治から戦前にかけては薬の名前は○○丸や○○湯、○○丹のような漢字やひらがな名が多く、また以前にご紹介したような“ズバリ”や“ナオリン”“トレル”など効き目をあらわすようなカタカナ名も多くみうけられました。
    現在の売薬、OTC薬でもほとんどの薬の名前はカタカナ・横文字が多く、返って漢字の名前の薬を見受けると新鮮な感じがするものですが、それにしてもカタカナを使うと新しい考えとか、高級だとかいう観念や先入観が日本人にはあるようで、例えば介護保険の世界でもスタート当初、ホームヘルプだのデイケアだのショートステイだのお年寄りに難解なカタカナ語の羅列が不評を買いました。
    現代でも(あたりまえですが)医療保険で使われている薬は漢方薬を除けば殆どがカタカナ名で、コンピュータ印字の増えた現在でも手書きの処方せんで横文字で薬の名前を書かれることも時々あり薬剤師は読むのに苦労をしています。
    また薬関係の雑誌でもちょっとページをめくると“…はインセンティブになります。”“…はユニバーサルデザインを使用して…”などなど無理にカタカナを使わなくてもと思うものまでカタカナ語であふれており、幕末以来日本人は英語、舶来文化に弱いと感じる次第です。

  • 昭和10年代からの日本が対米英戦争をした太平洋戦争に至る時期にはさすがに横文字文化は駆逐の憂き目に会いましたが、その前後の時代、特に明治の文明開化のあとの欧米文化に初めて触れた時期と、太平洋戦争に破れた敗戦のアメリカの圧倒的な物量に対するあこがれの時期はその傾向が顕著で、売薬の世界でもいかにも舶来品、輸入品ではないかと思わせるような欧米文化礼賛、舶来かぶれともとれるようなデザインパッケージの薬が見受けられます。

    では今回はそんな薬たちをご紹介します。


(1)『GOL』

:何の薬かと思いますが、仁丹のような懐中薬で印紙が裏面に貼ってあることから、明治15年(1882年)から大正15年(1926年)の間の製品と思われます。


(2)『AMERITON』

:アメリカンではありません。アメリトンです。
 合衆国の象徴の自由の女神が描かれています。
 戦後のもので一包25円。


(3)『WASHITORON』

:ワシントンではありません。ワシトルンです。
 エンパイヤーステートビルなど摩天楼のそびえるビルが描かれたニューヨークのような日本語の全く無いデザインの薬です。
 戦後のもので一包30円。


(4)『カンサイ ピラドミン』

:化学成分名のピラミドンではなくピラドミンです。
 しかもカンサイ。横文字羅列で高級感をかもしだしていますが、成分の上に真ん丸の女性が描かれており正確な表記はどうでもよいような感じです。
 一包25円。


(5)『はれやか』

:英語の辞書の一頁ようなパッケージデザインの頭痛薬です。
 細かく書かれ過ぎてよく読もうとすると頭痛が余計にひどくなります。


(6)『サントニン散』

:横文字が書かれていますが、よく読むとローマ字で英語ではありません。
 一包50円


(7)『ワンツー』

:1・2で、のむ→きく→なおるわけで、横文字がいっぱい書かれていますが、これも良く読むとローマ字で英語ではありません。
 一包25円。


(8)『タイカケロリン』

:ケロリンの類似品ですが、外国人風の男女と横文字が書かれています。これはちゃんとした英文の表記です。
 外国人にも『タイカケロリン』は効き目があるということです。

(9)『獨逸風藥』(数種)

:正真正銘の明治期のドイツからの輸入薬品と思われます。少なくとも原料は輸入していたものと思われます。
 戦前、陸軍や医学界におけるドイツ、プロシア、プロイセンに対する信奉は絶大なものでした。八~十銭。

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(10)『アントロイミン』『トニック』『シピリス』

:砲弾をデザインした Best Medicineシリーズです。
 それぞれなんかの意味があるのでしょうが、意味不明のところが返って価値を高めている感じです。三圓。

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(11)『塩酸加里散』

:薬とは思えないすばらしいデザインのうがい薬です。
 印紙が裏面に貼ってあることから、明治15年(1882年)から大正15年(1926年)の間の製品と思われます。


(12)『ヘデクパウダ』

:実際良く効く欧米の名薬です。


(13)『金久散』

:広島で戦前に作られていた止血薬です。三十五銭。


(14)『セメンエン散』(;裏面)

:虫下し。裏面に用法、用量などが横文字で書かれています。三銭。


(15)『ラコス』(;裏面)

:若き日のナポレオンらしき人物の描かれた解熱鎮痛薬です。十五銭。


(16)『アイロミン』

:ローマの戦士をデザインしたような横文字表記の多い去たん咳止めです。三十五銭。


(17)『ピラチン』

:横文字にプラス医師までもデザインされた風邪薬。十五銭。


(18)『乳たる薬』

:愛児に授乳中のデザインに横文字表記の新旧混在の催乳薬で印紙が裏面に貼ってあることから、明治15年(1882年)から大正15年(1926年)の間の製品と思われます。二十五銭。


(19)『快経丸』

:婦人薬。印紙が裏面に貼ってあることから、明治15年(1882年)から大正15年(1926年)の間の製品と思われます。三十銭。


(20)『強力感冒薬』

:効能が英語で書かれている金沢薬専卒業の薬学士の作った風邪薬。三十五銭。


(21)『キング トンプク』

:頓服なのに今でも使うような内服薬の薬袋を模したようなパッケージにローマ字で書かれたKONO(効能)が書かれています。2包20円。



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