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今は昔 売薬歴史シリーズ 23

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~ ミヤリサン・ワカ末 ~



『ミヤリサン』『強ミヤリサン』 = 〖ミヤリサン〗

  • 昭和8年(1933年)、後の「ミヤリサン株式会社」の初代社長となる宮入近治博士は千葉医科大学(現 千葉大学医学部)においてヒトの腸内細菌の研究中に腸内の腐敗を強く抑制する芽胞(天然のカプセル)菌=酪酸菌を発見、これを宮入菌と名付けました。
    昭和15年(1940年)には宮入菌の製造許可がおり工業的生産が開始され、昭和22年(1947年)には宮入菌剤研究所が設立され、昭和40年(1965年)には販売会社「ミヤリサン株式会社」が設立宮入近治博士が初代社長就任しました。
    宮入菌=酪酸菌は上記のような病原微生物の抑制作用はもとより酪酸やビタミン類、消化酵素を産生することによりさまざまな角度から腸の機能を正常化させひいては健康の根源を生み出すことになります。腸を健康に保つことが体の健康を保つことにつながるという観点はこれまで御紹介してきた『エビオス』や『ワカモト』の伝統薬はじめ「ビオフェルミン」などの整腸剤に共通して言えることだと思います。
    コレクションの『ミヤリサン』『強ミヤリサン』は製造販売元が長野県戸倉の宮入菌剤研究所となっていることから昭和22年(1947年)以降、昭和40年(1965年)以前の製品と推測されます。
    なお現代の〖ミヤリサン(錠)〗の効能は“整腸(便通を整える)、軟便、便秘、腹部膨満感だけですが、昔の『ミヤイリサン』『強ミヤイリサン』には適応症に赤痢・疫痢・アメーバ赤痢、結核性下痢なども書かれています。
    (医療用の「ミヤBM」はミヤイリサンと全く同じ酪酸菌=宮入菌の製剤です。)

    『ミヤリサン』

『ワカ末錠』 = 〖ワカ末錠〗〖新ワカ末プラスA錠〗〖ワカ末止瀉錠〗

  • 今も昔も黄色いパッケージが目印の下痢止めブランドの『ワカ末』です。
    薬と歴史シリーズ第2回の“宗教と薬1”の中で「お百草と陀羅尼助」を紹介しました。
    お百草と陀羅尼助の主剤はキハダ、黄蘗(黄柏)の樹皮でその主成分はベルベリンですが、それにゲンノショウコやセンブリなどの苦味健胃剤を加味した製剤ですが『ワカ末』は西洋薬に衣替えした「お百草と陀羅尼助」とも言える薬です。
    つまり『ワカ末錠』〖ワカ末錠〗はいずれも黄柏抽出のアルカロイドのベルベリン塩酸塩で、『ワカ末』シリーズの〖新ワカ末プラスA錠〗は黄柏抽出ベルベリン塩酸塩にビタミンB1、消化吸収を助ける生薬サンザシ末を加えたもので、〖ワカ末止瀉錠〗は黄柏抽出ベルベリン塩酸塩にゲンノショウコエキスを加えたものです。
    コレクションの『ワカ末錠』は中村瀧製薬株式会社(中滝薬品)の製品で中滝は薬種商としては江戸時代から続く老舗で明治・大正・昭和の初期にかけては大木、茂木、岩城、小西新兵衛、鳥居、田辺元三郎等と並ぶ企業でした。特に大正12年(1923年)の関東大震災以前は塩野義製薬と山之内商会の関東代理店で震災以降は塩野義製薬の関東総代理店でした。
    製剤部門は中村滝新薬株式会社が、卸小売部門は中村滝商店でした。
    中村滝新薬株式会社は戦時中の混乱期の昭和18年(1943年)に中村瀧製薬株式会社と商号を変更、昭和19年には中滝を含む全製薬企業は軍事統制下に置かれましたが、コレクションの中村瀧製薬株式会社(中滝薬品)製の『ワカ末錠』の納書には右側に中国語の説明が書かれており、また地名が昭和18年の東京市から東京都へ変更になった東京都中央区であることから昭和18年から昭和20年にかけての短い期間の貴重な製品ではないかと推測されます。 その後戦後昭和46年(1971年)に中滝は「鐘紡」に営業を譲渡、「カネボウ中村滝製薬株式会社」に商号を変更、昭和49年(1974年)には「カネボウヤマシロ製薬」とともに「鐘紡」に吸収合併されました。 平成13年(2001年)には「鐘紡」は「カネボウ」に社名を変更、平成19年(2007年)には「カネボウ」は「クラシエ」に社名を変更し現在に至っていますが、このような経緯から『ワカ末錠』も現在では「クラシエ製薬」「クラシエ薬品」が製造販売をしているわけです。


    『ワカ末』


〔参考文献〕
・インターネット     フリー百科事典 『ウィキペディア Wikipedia』
・インターネット     各社HP
・戦時広告図鑑      町田 忍 著   WAVE出版

〔現代の製品提供〕
・昭島市 十字堂薬局  荻野 祥子 先生


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