ホームおくすり博物館昔はこんな薬もありました

昔はこんな薬もありました 11

赤チン へ ≪  ≫ 牛・馬の薬 へ
~ メモリ・禁煙タバコ ~


“昔はこんなもの(薬)もありましたシリーズ”。今回の一番目は一種の健康器具のような記憶力増進器『メモリ』です。


(1)記憶力増進器『メモリ』

  • 記憶力増進器『メモリ』 京都帝国大学講師(故)山本宣治先生推奨、ドクトル馬島イ間先生証明のこの製品は、神戸市の生田神社の東門の角にあった“治産協會 研究部”が一手に販売していたもので、下記のような病に起因する鼻と脳の症状に悩まれる紳士・淑女に効果てきめんの治療器具であります。

    “神経衰弱より来る記憶力の減退” “思考力が散乱する人” “判断力理解力が衰へる人” “頭内朦朧” “全身倦怠の人” “身心疲労する人” “不眠症” “眠い癖に眠れぬ人” “物に厭き易く氣がふさぐ人” “眩暈のする人” “讀書執務中に疲れる人” “汽車、汽船、電車に酔う人” “鼻カタルより来る鼻を何らかんでも鼻汁が後に残る気持ちがする人” “物の香が良く判らず鼻汁が少しも出ず鼻の中が乾く人” “鼻つまりで困る人” “頭痛、頭重、氣付、聲を使ふ人” “登山、劇場、海水浴場、旅行等”

  • 別名“ユーカリー吸入器”。要はガラス器の内部にユーカリ油を染み込ませた綿が仕込んであり、箱の絵の様にゴム部分を鼻に差して吸引するもので、機構は簡素ですが、あまり人前でするのははばかれる器具です。

(2)薬用煙草『金剛』&『喘息煙草』

  • 現代でも“ケムリを吸う。ノドの薬。”、セキを鎮めタンを切る効能の「ネオシーダー」という喫煙医薬品(20本で284円)がありますが、昔にも同じような喫煙医薬品があったようです。

    まずは『金剛』。8種類の薬草を乾燥して紙巻き煙草にしたもので、その適応症は“喘息性呼吸器系各症”。 特に本剤の煙は薬物なれども厭(いと)ふべき臭味なくニコチン毒は絶対に含有しない利点を有するとのことです。 (「ネオシーダー」は煙中にニコチンとタールをわずかに含むようです。)

    『金剛』 『参考』
    ネオシーダー

  • 『喘息煙草』 つぎは中身はありませんが、ズバリ『喘息煙草』。
    詳しいことは判りませんが、箱に明治14年(1881年)創業とあることから昔から同じような発想のものがあった様です。

    [付録]
    現代では喫煙は害であることは常識ですが、『金剛』や『喘息煙草』のような煙草まがいの薬品ばかりでなく昔から喫煙の害を説いて、禁煙を目的とした薬、含嗽剤『禁煙水』もありました。
    その推薦文を以下に転記します。

    “凡そ喫煙の害は小学児童の頃より良く分つて居ることであるが人真似から一旦煙草を手にするや知らず識らずのうちに中毒となる。どうしても之を廢することは出来ない。
    従ってその中毒はますます慢性となり口腔、胃、心臓、肺臓、脳、眼(まなこ)等を冒(おか)して種々の病気を起こす。さあ、こうなると大変である。一旦廢めようと思っても泥田に足を踏み入れたと同じやうに益々深みにはいる。ここに禁煙水と云ふものが出来た。
    これで一度口を嗽(すす)ぐ時はいかにうまかつた煙草もたちまち変って我慢にも喫(の)めなくなって了(しま)ふ。何んと皆さんこれを用ひて煙草を止める氣はないか。”

    そして喫煙の害としては上記の口腔(:扁桃腺や歯齦など)、胃(:消化を妨げ吐気、嘔吐をおこす。)、心臓(:弱くし働きを乱す。血液に入り流動性を変え赤血球を変える。)、肺臓(:氣道を刺激、咳嗽を出す。)、脳(:鈍くし神経を麻痺させる。)、眼(:瞳孔を拡大し視力を害する。)他に、耳は正しい音を聞かず耳鳴りがする、皮膚を悪くし特に顔色の美を損し、身体各機関の新陳代謝を鈍くし壮者を老衰者の如く、老人を生気乏しきものとなす・・・ 等が説かれ、禁煙後には日々心を変えて新たにし、感謝と喜悦と希望に満たされ勇往邁進が出来、己の喜びを人にも及ぼし、さらに進んで真理を楽しみ行うを喜ぶに至ると説かれています。
    こうなると信仰めいてきますが、喫煙の害に発癌性が含まれていないのは当時の科学の限界のようです。

    『禁煙水』

    『禁煙水』

(3)調声・鎮静・鎮痛剤『ボン・ヴォクス』

  • これは医薬品です。成分はピラビタールとアンナカ(:安息香酸ナトリウムカフェイン)。
    ピラビタールは解熱鎮痛剤アミノピリンと脳幹性催眠剤バルビタールの分子化合物。(:アミノピリン2分子とバルビタール1分子からなる。)アンナカはカフェインと安息香酸ナトリウムの化合物でカフェインと同じく強心、中枢興奮、利尿、鎮痛(偏頭痛)などの作用を持つ。
    一般にバルビタールはアミノピリンの鎮痛作用を増強するものと考えられていますが、本剤の適応としては次のようなものが書かれています。

    こんな時に
     発声に… 洋楽・邦楽・うたを嘔う時、講演・朗読・放送・読経等
    又 声が嗄れたり、声の出にくい時
     鎮静に… 舞台・演台・マイクに立つ時・入学入社試験・各種競技
    碁・将棋・麻雀等に際し、気分をゆったりと落着かしむ
     鎮痛に… のどの痛み・咽喉カタル・扁桃腺肥大・頭痛・偏頭痛
    感冒・歯痛・神経痛・腰痛・生理痛・骨折痛・手術後の疼痛等

    『禁煙水』



©一般社団法人北多摩薬剤師会. All rights reserved.
190-0022 東京都立川市錦町2-1-32 山崎ビルII-201 事務局TEL 042-548-8256 FAX 042-548-8257