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昔はこんな薬もありました 5

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~ 『孫太郎虫』『赤蛙丸』他 ~


このシリーズではこれまで内服ワクチン、市販されていた覚醒剤、アンテルミンチョコ、アンプル入風邪薬、カルブンケン、変な外用薬3点をご紹介いたしましたが、今回は(その5)として子供に縁のある『孫太郎虫』『赤蛙丸』『奇妙巾着』の3点を取り上げてみました。



1. 『孫太郎虫』

  • 孫太郎虫 この『孫太郎虫』は日本固有の代表的な民間薬で、特に奥州宮城県の斉川村(現在は白石市)に産したものが有名で、斉川には由来に関する次のような二種類の伝説が伝わっています。
    一つは仇討ちにまつわるもので、永保年間(1081~3年)の頃斉川に住む桜戸の女房はかねがね父の仇を討とうとしていましたが、その子孫太郎は生来虚弱で疳が強く、7才の時に大病で重体になりました。そこで鎮守社の田村神社に籠って祈願をしたところ“斉川の小石の間の虫(ヘビトンボ)を食べさせよ。”との御神託があり従うと元気回復、その後健康体となり成人し首尾よく仇討ちを遂げたので、以後この虫を『孫太郎虫』と名づけた・・・いう硬い内容の話です。
    あと一つは年代不明の昔、斉川宿場の農夫、孫左衛門が斉川に産するヘビトンボの幼虫を串焼きにして食べたところ、味もよく体に精もついたので70歳(!)になる妻にもすすめ食べていると、そのうちに妻が妊娠(!!)し安産しました。そこでその孫のような息子を大変可愛がり孫太郎と名づけたので、それ以来このヘビトンボは『孫太郎虫』と呼ばれるようになった・・・という軟い内容の話です。
    諸氏が硬軟ある伝説のどちらを好むかはともかく、田村神社の裏手には『孫太郎虫』の供養碑があり1790年~1811年にかけて地元から仙台、さらには江戸へと広まり、つい最近の数十年前までは民間薬として存在していたようです。
    孫太郎虫 上記のように『孫太郎虫』は脱皮を繰り返して成長したヘビトンボ(:成虫はトンボに似ていて顔がヘビを思わせる形相のためヘビトンボという。)の幼虫を網に引っ掛けて捕らえ、捕らえた孫太郎虫は乾燥させて5匹ずつ1本の串にさして10串を1把として、桐の箱に入れて商品としたものです。
    そして『孫太郎虫』は小児の疳に1日1串(5匹)ずつ、砂糖醤油につけて焼いて食べるものですが、『孫太郎虫』には必須アミノ酸や多くの脂肪やステリン体が含まれており(ヘビトンボの幼虫『孫太郎虫』はトンボ、トビケラ、カゲロウなど同じ水生昆虫の仲間を捕食するだけあって)、斉川の老人達の言い伝えでは強精の薬効もあり江戸時代はその面でももてはやされたとのことです。
    写真 左 のコレクションはこの『孫太郎虫』を粉末とした製品で、裏面に“国威宣揚 銃後の護りは丈夫な子孫の繁栄より”と書かれていることから戦時中の製品と推測されます。
    孫太郎虫 孫太郎虫 孫太郎虫
    マゴタロウムシの粉末(薬用昆虫の文化誌より)

    なお漢方メーカーのコタロー(小太郎)製薬はかつて『孫太郎虫』を作っていましたが、会社としてより大きく発展するようにとの願いから孫より出世して小太郎と名づけたものと聞いております。


2. 『赤蛙丸』(あかひきがん)

  • きづ薬 女の子が川で水遊びをしているチラシがあります。



    このチラシは『霊伝赤蛙丸』の広告で、
    その薬の実物のパッケージには名前の下に
    赤蛙が3匹描かれています。
    赤蛙丸 赤蛙丸 赤蛙丸 赤蛙丸
    この薬『赤蛙丸』は江戸時代から伝わる伝統薬で文政7年(1824年)に出版された“江戸買物独案内”にも掲載されている小児の疳の虫の妙薬でした。
    古い中国の医書、本草書にはヒキガエルの類(蝦蟇・ガマやヒキガエル)が一切の五疳・八痢・腫毒・破傷風病・脱肛を治すとあり、これから発展して赤蛙(アカガエル)を疳の虫の妙薬としたようで、江戸時代には赤蛙を生きたまま持ち歩き注文があればその場で料理して売り、また関西では赤蛙の腹を抜いて一匹ずつ串刺しにして干したのを籠に入れて“アカガエルェー”と売り声をあげて売り歩き、これを醤油につけて子供に食べさせたとのことです。
    この『赤蛙丸』は“江戸買物独案内”によると麹町三丁目で作られており、その広告には次のように書かれてあります。
    “この良法は広州(近江・滋賀県)伊吹山、丹州(丹波・京都と兵庫の一部)篠山の両山で産出する赤蛙には効能のすぐれたものがあり、よく選んでその肉をもって作った丸薬で小児の諸疳の良薬であります。
    この赤蛙は常に梢で新樹を食べて、泥土にまみれていないので清浄であります。
       この丸薬の他にも乾干したものもあります。”

    コレクションの『赤蛙丸』の裏面に書かれている成分は次のようなものです。

      赤蛙黒焼、朝鮮人参、熊膽、麝香、沈香

    なお、この店は助惣焼というドラ焼きの一種の餅菓子でも有名な店であったとのことです。


3. 『奇妙巾着』『退毒腰下袋』

  • このシリーズ(その4)で摩訶不思議な薬石の『蛇頂石』というものを紹介いたしましたが、この『奇妙巾着』『退毒腰下袋』も今でいう医薬部外品のようなもののようです。
    効能にいうところでは次のようなものであります。
    “小児の乳飲み子の頃から、常に提(さ)げておけば、まず身体を清潔にして、小便のただれや胎毒などの悪い臭いを消して清潔にする良剤です。
    また別に新しく袋を作って『奇妙巾着』をその袋へ入れて襦袢の上、せまもり(注)の所へ下げるべし・・・。”
    (注)「せまもり」とは背守(せもり)のことで、一つ身〔長さ八尺=2.4m~一丈一尺=3.3m長さで並幅(約36cm)の布一枚で仕立てた産着や乳児用の和服、着物〕の背の中央にお守りとして縫いつけた紋のことで、襟肩から3cmほど下げて色糸で飾り縫いをしたもの。
    芳香成分からなる生薬が主成分のようですが、いわば匂袋(においぶくろ)とお守り、お札を合わせ持ったようなもののようです。
    皆さんも薬を飲むときは期待と感謝をこめてよく拝んでから服用してください。よく効くと思います。
    信じることが大切です。
    奇妙巾着 奇妙巾着 退毒腰下袋 退毒腰下袋

    奇妙巾着


( 参考文献 )
 ・本草綱目 春陽堂
 ・原色和漢薬図鑑 保育社
 ・薬用昆虫の文化誌 東京書籍


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